水環境学会のWebページで紹介されていたセミナー・パネルディスカッション「小規模分散型テクノロジーの可能性」(2017年5月21日(日)開催)に参加してみました。
このイベントは「適正技術フォーラム」設立の準備イベントとの位置づけで、今年の11月に発足準備イベントが開催される予定です。
これから議論を重ねてフォーラム(または学会)を設立する予定だそうです。
「適正技術」とは定まった定義はないようですが、本質的に重要な論点としては、
○適合性~ニーズと条件に応じた最適資源配分
○人々によるコントロール・住民の主体的参加
○環境調和性
であり、このフォーラムでは『技術が適用される(主に途上国の)現場の社会的・経済的・文化的条件に適し、多くの人々が参加しやすく、環境の保全や修復にも資する技術』
(講演資料集より抜粋)と定義するそうです。
技術的には環境関連技術、水環境・水処理関係と、省エネ/節エネ・再生エネルギーが中心となっていました。
(写真は会場となったJICA市ヶ谷ビルです。)
講演内容は以下の通りでした。
(1)「適正技術とこれからの技術体系―アジアでの実践をうまえて」田中直(APEX代表理事)
インドネシアの川・運河の現状と衛生環境、それらを改善する排水処理技術を中心にアジア諸国での実践例を紹介。これからの技術体系を考える内容でした。
例えば、日本の排水処理では「活性汚泥法」が主流ですが、インドネシアの環境・地域特性から「回転円板法」の改良型である「立体格子状接触回転円板」が開発され実践で利用されてます。
いずれも微生物を利用した排水処理法です。
(2)「適正技術による途上国用各種機器の開発と普及」牛山泉(足利工業大学理事長・名誉教授)
風力エネルギー、太陽光発電、ソーラークッカー、バイオマス利用、小水力発電など、適正技術に基づく技術開発の事例が紹介されました。
『足利工業大学では国際協力機構(JICA)の要請に応じて開発途上国への技術援助を行っているがその基本的な技術哲学は「適正技術」である。しかし、あらゆる開発途上国に適用できる普遍的な適正技術”Appropriate Technology”というものは存在しない。適正技術とは、その技術を必要とする、ある国、ある地域の人々の個別の必要条件に完全に適合するものが、適正技術の本質であると言える』(講演資料集より抜粋)
(3)「途上国における小規模分散型サニテーションと適正技術」北脇秀敏(東洋大学教授・副学長)
途上国における衛生問題、健康問題の例、途上国における適正技術と制約要因、ニーズと改善例、日本での経験など。
「開発心理学的」検討(動機付の仕方、「ステイタスシンボルにする」など)、インセンティブの存在(信念・宗教、達成感、自己実現感など)、など、社会的、心理的な考察を含めて、発展途上国の適正技術を紹介されてました。
(4)「自然エネルギーに基づく節エネ社会構築の展望と適正技術の役割」
「なぜ、「適正技術」なのか」「社会の中で技術の実践を民主的に制御する」「技術の適正性についての共通認識を確立する」など、適正技術について技術的な側面よりも、社会的な見地から考察していました。
発展途上国ではなく、日本での事例で、地域社会での取り組み、中小企業の技術開発、政治的・経済的な問題などや、ドイツにおける事例などが紹介されました。
(以上、敬称略)
最後にパネルディスカッションが行われ、参加者からも多くのご意見があしました。
(2017/06/03 Shin Onda)